趣味のPython・深層学習

中級者のための実装集

専門的な技術文章をわかりやすく書くための9つの掟

高度な専門性と極めてのわかりやすさを両立させた技術文章を書くことは、文章執筆における最高の到達点と言えるでしょう。言語の醍醐味は、背景知識の異なる者同士が上手く意思の疎通ができることにあります。そこで本稿では、専門的でありながらも誰もが理解できる、気持ちの良い技術文章を書くための9つの掟をご紹介します。

第1掟: 読者像を具現化し筆を執る

卓越した技術文章とは、まず読者像を可視化し、その姿に向けて意図を持って書かれるものです。単に一般読者と考えるのではなく、できる限り詳細に読者の属性を特定することが大切です。 例えば「プログラミング経験3年程度のWebエンジニア向けの記事」と明確に定義し、その想定読者像に基づいて内容や言葉遣いを吟味していきます。読者に共感を持って寄り添う姿勢が何より重要なのです。

第2掟: 筋道を立ててフレームを構築する

次に、扱う技術概念の全体像を意識的に構造化し、論理的な流れを描きます。頭から詳細に突っ走るのではなく、全体とその中に位置づけられる要素の枠組み(フレーム)を最初に示すことで、読者が先に全体像を掴めるようにします。 この際、全体から部分へと話を展開する方針を立てることが重要です。トップダウンで全体像を示した上で、各部分をボトムアップに掘り下げていく、この手法こそが専門性とわかりやすさを両立させる近道なのです。

第3掟: 例示とアナロジーの泉を絞り出す

抽象的で難解な概念には必ず具体例とアナロジーの泉があります。この泉から最大限に汲み上げ、言語化して概念の本質に迫ることが、極めて分かりやすい文章の源泉となります。 具体例とは実際の事例や使用例を示すことで、概念が適用される様子を説明することです。アナロジーとは世間一般で理解しやすい類似の事物に例えて説明することです。両者を組み合わせることで、曖昧だった概念がくっきりとイメージできるようになるのです。

第4掟: 視覚的補助線を巧みに綴り込む

人間の認知はテキストだけでなく視覚情報にも強く依存します。したがって、適切な図解やイラスト、動画などの視覚的補助線を文章に取り込むことは、理解の助けとなり得ます。 具体的には概念の全体像を示す図解や、細かい動作を視覚化した動画など、状況に合わせてさまざまな表現を活用していきましょう。言語と視覚の二刀流により、専門性の高い内容もスムーズに頭に入ってくることでしょう。

第5掟: カタカナ語は平明な言葉で語る

わかりやすさの本質は平明な言葉遣いにあります。専門用語はカタカナ語になりがちですが、読者にとって意味が分かりにくいため、平易な言葉に置き換えることを心がけましょう。 カタカナ語は適切に定義し、定義した上で控えめに使うのが吉です。概念の中核部分のみ専門用語を用い、残りは簡潔かつ丁寧な言葉で解説するのが理想的です。言語感覚の違いを乗り越えて意思の疎通を図る、そこに専門性とわかりやすさの止揚点があるのです。

第6掟: セクショニングを意識し知的整然を貫く

複雑な技術概念を分かりやすく説明する上で欠かせないのが、セクショニング(節分け)の技法です。節を適切に分割し、1つの概念が1つの節で完結するよう心がけましょう。 さらに、各節の中で「前置き - 本論 - まとめ」の3部構成を意識することで知的整然性が生まれ、読者の理解がスムーズになります。一気に長文で詰め込まれると逆効果なので、整理されたセクショニングこそが要となるのです。

第7掟: 学ぶ態度を貫き橋渡しを試みる

文章を書く者は何より謙虚な学ぶ心を持つべきです。疑問を持ち続け、より良い表現を探求する姿勢が大切なのです。そうすれば必然的に読者の立場に立った橋渡しを意識するようになるはずです。 具体的には、前提知識の補足や、関連情報源への誘導などを適宜行うことで、読者に寄り添うことができます。書き手自身の学びの過程を書き込むことも有効でしょう。こうした姿勢から醸し出される文章に、読者は強い信頼を寄せるはずです。

第8掟: フィードバックを求め経年改良を重ねる

優れた技術書は一朝一夕にはできあがりません。肝心なのはフィードバックを求め、経年にわたって推敲を重ねていくことです。 執筆後は積極的に読者からの反応を集め、分かりにくい点や改善点をあぶり出します。さらにそのフィードバックを活かして改訂を重ね、常に進化を続ける姿勢が何より大切です。そうすれば必ずや極上の技術文章が出来上がるはずです。

第9掟: 自身の興味と探究心を賭ける

最後に控えめに一言。探究心への思いと、本当に面白いと感じる気持ちを文章に込めることです。そこに真摯な興味とパッションがなければ、どれだけ腕を振るっても読者を惹きつけることはできません。 技術的な話題であっても、面白さ、ひいては美しさすら感じられるはずです。その興味とパッションを存分に発揮し、心の琴線に触れるような味わい深い技術文章を書くことを目指しましょう。そこに極めてのわかりやすさと高度な専門性が宿るはずです。