趣味のPython・深層学習

中級者のための実装集

潜在変数変数とは結局なんなのか

1. 潜在変数の概念

潜在変数とは、直接観測できない潜在的な変数のことを指します。具体的には、データに潜む隠れた要因や特性、原因などを表す変数のことを意味します。

例えば、人間の能力を表す潜在変数としては、知能や創造性、パーソナリティなどが考えられます。これらは直接測定することができませんが、テストの点数や作品、行動などから間接的に推定することができます。

2. 潜在変数モデルの必要性

データには常に観測されない要因が存在します。これらの潜在変数を明示的にモデル化することで、以下のようなメリットがあります。

  1. データの複雑な構造を捉えやすくなる
    潜在変数を導入することで、観測データの背後にある複雑な構造や関係性を表現できます。

  2. 予測精度が向上する
    潜在変数を考慮に入れることで、観測データだけではモデル化しきれない部分を補完でき、予測精度が向上します。

  3. 解釈性が高まる
    潜在変数を同定することで、データに潜む重要な要因を可視化でき、モデルの解釈性が高まります。

3. 潜在変数モデルの例

潜在変数モデルには、以下のような代表的なものがあります。

3.1 因子分析モデル

因子分析モデルは、観測変数と潜在変数(因子)の関係を表すモデルです。観測変数は潜在変数の線形結合で表され、以下のように表現できます。

x = Λz + ε

ここで、xは観測変数のベクトル、zは潜在変数(因子)のベクトル、Λは因子負荷行列、εは誤差項です。

3.2 潜在クラスモデル

潜在クラスモデルは、観測データを潜在的なクラスに分類するモデルです。ある観測データxが潜在クラスzに属する確率P(z|x)を推定します。潜在クラスの数は事前に決める必要があります。

3.3 その他のモデル

その他の潜在変数モデルとして、以下のようなものがあります。

  • 潜在ディリクレ配分法(LDA)
  • 潜在空間モデル
  • 混合ガウス分布モデル

4. 潜在変数モデルの実装例

ここでは、因子分析モデルの実装例をPythonで示します。

import numpy as np
from scipy.stats import multivariate_normal

# 観測データ
X = np.array([[1, 2, 3], [4, 5, 6], [7, 8, 9]])

# 潜在変数の数
n_factors = 2

# 因子負荷行列の初期値
Lambda = np.random.randn(X.shape[1], n_factors)

# 潜在変数の分散の初期値
psi = np.eye(n_factors)

# 観測変数の分散の初期値
theta = np.ones(X.shape[1])

# 因子分析モデルの学習
for i in range(1000):
   # E-step: 潜在変数の期待値を計算
   mu = np.dot(X, Lambda)
   sigma = np.dot(Lambda, Lambda.T) + np.diag(theta)
   z = mu + np.linalg.solve(sigma, (X - mu).T).T
   
   # M-step: パラメータを更新
   Lambda = np.dot((X - z).T, np.linalg.solve(np.dot(z.T, z), z.T))
   psi = np.dot(z.T, z) / X.shape[0]
   theta = np.diag(sigma) - np.diag(np.dot(Lambda, Lambda.T))

print(f'因子負荷行列: \n{Lambda}')
print(f'潜在変数の分散: \n{psi}')
print(f'観測変数の分散: \n{theta}')

この実装では、因子分析モデルのパラメータ(因子負荷行列、潜在変数の分散、観測変数の分散)を確率的勾配降下法によって最適化しています。

5. まとめ

潜在変数は、直接観測できない隠れた要因を表す変数です。潜在変数モデルを用いることで、データの複雑な構造を捉えやすくなり、予測精度や解釈性が向上します。

EMアルゴリズムと潜在変数

今回は機械学習の重要なトピックである「潜在変数モデル」と「EMアルゴリズム」について、実装例を交えながら丁寧に解説していきます。

潜在変数モデルとは?

潜在変数モデルでは、観測できる変数(データ)と観測できない潜在変数(隠れた要因)の間に何らかの関係があると仮定します。例えば、以下のようなモデルが考えられます。

  • 人の収入(観測変数)は、能力や努力度合い(潜在変数)に影響を受ける
  • 天気予報の適切さ(観測変数)は、予報士の能力(潜在変数)に左右される
  • 製品の品質(観測変数)は、工場の設備状況(潜在変数)による

このように、潜在変数モデルでは観測できないが重要な要因(潜在変数)が、観測できるデータ(観測変数)に影響を与えていると考えられています。しかし、潜在変数は直接観測できないため、その値を推定するのは難しい問題となります。

EMアルゴリズムによる潜在変数モデルの解析

そこで登場するのが、EMアルゴリズム(Expectation-Maximization algorithm)です。EMアルゴリズムは、潜在変数を含むモデルのパラメータを推定するための一般的なアルゴリズムです。 具体例として、ある集団にはハッピー層とアンハッピー層の2つの潜在的なグループ(潜在変数)が存在すると考えられます。しかし、我々は個人の幸福度(観測変数)しか観測できません。EMアルゴリズムを使うことで、観測された幸福度からグループ分けのパラメータ(平均や分散など)を推定することができます。 EMアルゴリズムは以下の2ステップを繰り返し行うことで、パラメータを推定します。

  • E-step (Expectation step): 現在のパラメータを使って、潜在変数の事後確率分布を計算する。
  • M-step (Maximization step): 事後確率分布を使って、対数尤度を最大化するようにパラメータを更新する。

この2ステップを交互に繰り返すことで、潜在変数を含むモデルのパラメータを徐々に良い値に近づけていきます。 次に、Pythonでの実装例を見ていきましょう。

import numpy as np

# データ生成過程
# zは潜在変数、xは観測変数
# P(z=0) = 0.5、P(z=1) = 0.5 
# z = 0の時、x ~ N(0, 1)
# z = 1の時、x ~ N(5, 1)

def sample_data(n_samples):
    z = np.random.binomial(1, 0.5, n_samples)  # 潜在変数zをサンプリング
    x = np.zeros(n_samples)
    x[z == 0] = np.random.normal(0, 1, np.sum(z == 0))  # z=0の時、x ~ N(0, 1)
    x[z == 1] = np.random.normal(5, 1, np.sum(z == 1))  # z=1の時、x ~ N(5, 1)
    return x, z

# EMアルゴリズム
def em(x: np.ndarray, n_iter: int = 100) -> tuple[float, float]:
    """EMアルゴリズムを実行し、最終的な平均と分散を返す"""
    n_samples = len(x)
    
    # 初期値
    mu0 = 0.0  # 平均の初期値
    mu1 = 5.0  
    sigma0 = 1.0  
    sigma1 = 1.0 
    pi = 0.5  # 事前確率の初期値
    
    for _ in range(n_iter):
        # E-step: 事後確率を計算
        p0 = pi * np.exp(-0.5 * ((x - mu0) / sigma0) ** 2) / (np.sqrt(2 * np.pi * sigma0))
        p1 = (1 - pi) * np.exp(-0.5 * ((x - mu1) / sigma1) ** 2) / (np.sqrt(2 * np.pi * sigma1))
        gamma = p0 / (p0 + p1)
        
        # M-step: パラメータを更新
        mu0 = np.sum(x * (1 - gamma)) / np.sum(1 - gamma)
        mu1 = np.sum(x * gamma) / np.sum(gamma)
        sigma0 = np.sqrt(np.sum((x - mu0) ** 2 * (1 - gamma)) / np.sum(1 - gamma))
        sigma1 = np.sqrt(np.sum((x - mu1) ** 2 * gamma) / np.sum(gamma))
        pi = np.mean(gamma)
        
    return mu0, sigma0, mu1, sigma1

# サンプルデータを生成
x, z = sample_data(1000)  

# EMアルゴリズムを実行し、推定された平均と分散を出力
mu0, sigma0, mu1, sigma1 = em(x)
print(f"z=0の時の推定平均: {mu0:.2f}, 推定分散: {sigma0:.2f}") 
print(f"z=1の時の推定平均: {mu1:.2f}, 推定分散: {sigma1:.2f}")

このコードでは、潜在変数zと観測変数xのデータ生成過程が定義されています。EMアルゴリズムの関数emでは、以下の処理が行われています。

平均、分散、事前確率の初期値を設定します。 E-stepで、現在のパラメータから潜在変数の事後確率gammaを計算します。 M-stepで、事後確率gammaを使って平均、分散、事前確率を更新します。 2と3を指定された反復回数(n_iter)分繰り返します。 最終的な平均と分散を返します。

実行すると、潜在変数zが0と1の2つの値を取る場合の、推定された平均と分散が出力されます。 このように、EMアルゴリズムを使うことで、潜在変数を含むモデルのパラメータを推定することができます。機械学習の分野をはじめ、様々な分野で幅広く利用されているアルゴリズムです。

機械学習で学ぶSOLID原則

機械学習実装でSOLID原則を理解する

ソフトウェア設計における重要な原則の一つであるSOLID原則は、機械学習の実装においても適用できます。SOLID原則は、コードの保守性、拡張性、テスト容易性を高めることを目的としています。この記事では、機械学習のコードを通して、SOLID原則の各原則を理解していきましょう。

単一責任の原則 (Single Responsibility Principle)

原則: クラスは1つの責任しか持ってはいけない。 機械学習のコードでは、様々な責任を持つクラスが存在します。例えば、データの前処理、モデルの学習、予測、評価などの機能を1つのクラスに詰め込むと、そのクラスは複数の責任を持つことになります。このようなクラスは、保守性が低下し、変更に伴うリスクが高くなります。 代わりに、それぞれの責任を別々のクラスに分割することで、コードの保守性と拡張性が向上します。

from typing import List

class DataPreprocessor:
    def preprocess(self, data: List[Dict]) -> List[Dict]:
        """データの前処理を行う"""
        # 前処理の実装

class Model:
    def train(self, train_data: List[Dict]) -> None:
        """モデルを学習させる"""
        # 学習の実装

    def predict(self, test_data: List[Dict]) -> List[float]:
        """テストデータに対して予測を行う"""
        # 予測の実装

class Evaluator:
    def evaluate(self, true_values: List[float], predictions: List[float]) -> float:
        """予測値と真値を比較して評価する"""
        # 評価の実装

このように、責任を分離することで、各クラスの役割が明確になり、変更や拡張が容易になります。

オープン・クローズドの原則 (Open/Closed Principle)

原則: クラスは拡張に対して開かれていなければならない一方、修正に対しては閉じられていなければならない。 機械学習の実装では、新しい機能を追加したり、既存の機能を変更したりする必要があります。しかし、既存のコードを直接修正すると、副作用が発生する可能性があります。 この問題を回避するには、インターフェースを導入し、そのインターフェースを実装するクラスを作成します。新しい機能を追加する際は、新しいクラスを作成するだけで済みます。

from abc import ABC, abstractmethod
from typing import List

class DataPreprocessorInterface(ABC):
    @abstractmethod
    def preprocess(self, data: List[Dict]) -> List[Dict]:
        pass

class StandardPreprocessor(DataPreprocessorInterface):
    def preprocess(self, data: List[Dict]) -> List[Dict]:
        """標準的な前処理を行う"""
        # 前処理の実装

class AdvancedPreprocessor(DataPreprocessorInterface):
    def preprocess(self, data: List[Dict]) -> List[Dict]:
        """高度な前処理を行う"""
        # 前処理の実装

上記の例では、DataPreprocessorInterfaceを導入し、StandardPreprocessorとAdvancedPreprocessorがそれを実装しています。新しい前処理手法が必要になった場合は、DataPreprocessorInterfaceを実装する新しいクラスを作成するだけで済みます。

リスコフの置換原則 (Liskov Substitution Principle)

原則: プログラムの振る舞いは、型によって規定される。 機械学習の実装では、複数のモデルやアルゴリズムが存在します。例えば、線形回帰モデルと決定木モデルがあります。これらの モデルは、共通のインターフェースを持つ必要があります。そうすることで、プログラムの振る舞いが型によって規定され、モデルの入れ替えが容易になります。

from abc import ABC, abstractmethod

class Model(ABC):
    @abstractmethod
    def train(self, train_data: List[Dict]) -> None:
        pass

    @abstractmethod
    def predict(self, test_data: List[Dict]) -> List[float]:
        pass

class LinearRegression(Model):
    def train(self, train_data: List[Dict]) -> None:
        """線形回帰モデルを学習させる"""
        # 学習の実装

    def predict(self, test_data: List[Dict]) -> List[float]:
        """テストデータに対して予測を行う"""
        # 予測の実装

class DecisionTree(Model):
    def train(self, train_data: List[Dict]) -> None:
        """決定木モデルを学習させる"""
        # 学習の実装

    def predict(self, test_data: List[Dict]) -> List[float]:
        """テストデータに対して予測を行う"""
        # 予測の実装

上記の例では、Modelというインターフェースを定義し、LinearRegressionとDecisionTreeがそれを実装しています。このように、共通のインターフェースを持たせることで、プログラムの振る舞いが型によって規定され、モデルの入れ替えが容易になります。

インターフェース分離の原則 (Interface Segregation Principle)

原則: クライアントが使用しないメソッドに依存してはならない。 機械学習の実装では、様々な機能を持つクラスが存在します。しかし、クライアントがその全ての機能を必要とするとは限りません。このような場合、不要な機能をインターフェースから分離する必要があります。

from abc import ABC, abstractmethod

class ModelInterface(ABC):
    @abstractmethod
    def train(self, train_data: List[Dict]) -> None:
        pass

    @abstractmethod
    def predict(self, test_data: List[Dict]) -> List[float]:
        pass

class PredictorInterface(ABC):
    @abstractmethod
    def predict(self, test_data: List[Dict]) -> List[float]:
        pass

class LinearRegression(ModelInterface, PredictorInterface):
    def train(self, train_data: List[Dict]) -> None:
        """線形回帰モデルを学習させる"""
        # 学習の実装

    def predict(self, test_data: List[Dict]) -> List[float]:
        """テストデータに対して予測を行う"""
        # 予測の実装

class PreTrainedModel(PredictorInterface):
    def predict(self, test_data: List[Dict]) -> List[float]:
        """事前学習済みモデルを使って予測を行う"""
        # 予測の実装

上記の例では、ModelInterfaceとPredictorInterfaceを分離しています。LinearRegressionクラスは両方のインターフェースを実装しているため、学習と予測の両方の機能を持ちます。一方、PreTrainedModelクラスはPredictorInterfaceのみを実装しているため、予測機能しかしません。このように、インターフェースを分離することで、クライアントは必要な機能のみを使用できるようになります。

依存関係逆転の原則 (Dependency Inversion Principle)

原則: 上位のモジュールは下位のモジュールに依存してはならない。両者は抽象に依存すべきである。 機械学習の実装では、様々なモジュールが相互に依存しあっています。例えば、前処理モジュールは学習モジュールに依存し、学習モジュールは予測モジュールに依存しているかもしれません。このような依存関係は、変更の際に問題を引き起こす可能性があります。 この問題を解決するには、抽象化を導入し、モジュール間の依存関係を逆転させる必要があります。

from abc import ABC, abstractmethod
from typing import List

class PreprocessorInterface(ABC):
    @abstractmethod
    def preprocess(self, data: List[Dict]) -> List[Dict]:
        pass

class ModelInterface(ABC):
    @abstractmethod
    def train(self, preprocessor: PreprocessorInterface, train_data: List[Dict]) -> None:
        pass

    @abstractmethod
    def predict(self, test_data: List[Dict]) -> List[float]:
        pass

class StandardPreprocessor(PreprocessorInterface):
    def preprocess(self, data: List[Dict]) -> List[Dict]:
        """標準的な前処理を行う"""
        # 前処理の実装

class LinearRegression(ModelInterface):
    def train(self, preprocessor: PreprocessorInterface, train_data: List[Dict]) -> None:
        """線形回帰モデルを学習させる"""
        processed_data = preprocessor.preprocess(train_data)
        # 学習の実装

    def predict(self, test_data: List[Dict]) -> List[float]:
        """テストデータに対して予測を行う"""
        # 予測の実装

上記の例では、PreprocessorInterfaceとModelInterfaceという抽象インターフェースを導入しています。LinearRegressionクラスはModelInterfaceを実装しており、PreprocessorInterfaceに依存しています。このように、抽象インターフェースを介して依存関係を逆転させることで、上位のモジュールが下位のモジュールに依存しなくなります。

まとめ

この記事では、機械学習の実装を通してSOLID原則の各原則を解説しました。SOLID原則を守ることで、コードの保守性、拡張性、テスト容易性が向上します。機械学習のプロジェクトでも、これらの原則を意識することが重要です。

Pythonで学ぶSOLID原則

PythonでSOLID原則を学ぶ

SOLID 原則は、ロバート・C・マーティンによって提唱されたオブジェクト指向プログラミングの5つの原則です。この原則に従うことで、コードの柔軟性、保守性、拡張性が向上します。Pythonでもこの原則を適用することができます。

単一責任の原則 (Single Responsibility Principle)

クラスは1つの責任しか持ってはならない つまり、クラスは1つのことしか行ってはいけません。複数の責任を持つクラスは、変更の影響範囲が広がり、保守性が低下します。

class Employee:
    def __init__(self, name: str, email: str, salary: float) -> None:
        self.name = name
        self.email = email
        self.salary = salary

    def work(self) -> str:
        return f"{self.name} is working..."

    def send_email(self, message: str) -> None:
        # メール送信処理
        print(f"Sent '{message}' to {self.email}")

上記の Employee クラスは、従業員の情報を保持し、作業を行う機能と、メールを送信する機能を持っています。このクラスは2つの責任を持っているため、単一責任の原則に違反しています。この問題を解決するには、次のように責任を分離します。

class Employee:
    def __init__(self, name: str, email: str, salary: float) -> None:
        self.name = name
        self.email = email
        self.salary = salary

    def work(self) -> str:
        return f"{self.name} is working..."

class EmailSender:
    def send_email(self, email: str, message: str) -> None:
        # メール送信処理
        print(f"Sent '{message}' to {email}")

これで Employee クラスは従業員情報と作業機能のみ、EmailSender クラスはメール送信機能のみを担当するようになり、単一責任の原則を満たすようになりました。

開放/閉鎖の原則 (Open/Closed Principle)

クラスは拡張に対して開かれており、変更に対しては閉じられているべきである つまり、既存のコードを変更することなく、新しい機能を追加できるようにするべきです。これにより、既存の機能を壊すリスクを最小限に抑えられます。

class Bird:
    def fly(self) -> None:
        print("Bird is flying")

class Penguin:
    def swim(self) -> None:
        print("Penguin is swimming")

上記の例では、Penguin クラスに fly メソッドを追加できません。なぜなら、ペンギンは飛べないからです。この問題を解決するには、継承を使います。

class Bird:
    def move(self) -> None:
        print("Bird is flying")

class FlyingBird(Bird):
    pass

class SwimmingBird(Bird):
    def move(self) -> None:
        print("Bird is swimming")

class Penguin(SwimmingBird):
    pass

これで、新しい FlyingBird や SwimmingBird を作ることで、機能を拡張できます。既存のコードを変更せずに済みます。

Liskovの置換の原則 (Liskov Substitution Principle)

サブタイプはその基本タイプで置換可能でなければならない つまり、サブクラスはスーパークラスの振る舞いを変更してはいけません。

class Bird:
    def fly(self) -> None:
        print("Bird is flying")

class Penguin(Bird):
    def fly(self) -> None:
        print("Penguin cannot fly")

上記の例では、 Penguin クラスが Bird クラスの fly メソッドを上書きしています。しかし、ペンギンは飛べないため、この実装は誤りです。この問題を解決するには、継承を避け、代わりにコンポジションを使います。

class FlyingBehavior:
    def fly(self) -> None:
        print("Flying")

class SwimmingBehavior:
    def swim(self) -> None:
        print("Swimming")

class Bird:
    def __init__(self, behavior: FlyingBehavior) -> None:
        self.behavior = behavior

    def move(self) -> None:
        self.behavior.fly()

class Penguin:
    def __init__(self, behavior: SwimmingBehavior) -> None:
        self.behavior = behavior

    def move(self) -> None:
        self.behavior.swim()

これで、Bird クラスと Penguin クラスは、それぞれ異なる振る舞いを持つことができます。

インターフェイス分離の原則 (Interface Segregation Principle)

クライアントが使用しないメソッドに依存してはならない つまり、インターフェイスは特定のクライアントが必要としない機能には依存してはいけません。

from typing import Protocol

class WorkBehavior(Protocol):
    def work(self) -> None:
        ...

class EatBehavior(Protocol):
    def eat(self) -> None:
        ...

class SleepBehavior(Protocol):
    def sleep(self) -> None:
        ...

class Employee:
    def __init__(self, work_behavior: WorkBehavior, eat_behavior: EatBehavior, sleep_behavior: SleepBehavior) -> None:
        self.work_behavior = work_behavior
        self.eat_behavior = eat_behavior
        self.sleep_behavior = sleep_behavior

    def work(self) -> None:
        self.work_behavior.work()

    def eat(self) -> None:
        self.eat_behavior.eat()

    def sleep(self) -> None:
        self.sleep_behavior.sleep()

上記の例では、Employee クラスは WorkBehavior、EatBehavior、SleepBehavior の3つのインターフェイスに依存しています。しかし、クライアントによっては EatBehavior や SleepBehavior が不要な場合があります。この問題を解決するには、インターフェイスを分離します。

from typing import Protocol

class WorkBehavior(Protocol):
    def work(self) -> None:
        ...

class LivingBehavior(Protocol):
    def eat(self) -> None:
        ...

    def sleep(self) -> None:
        ...

class Employee:
    def __init__(self, work_behavior: WorkBehavior) -> None:
        self.work_behavior = work_behavior

    def work(self) -> None:
        self.work_behavior.work()

class HumanEmployee(Employee):
    def __init__(self, work_behavior: WorkBehavior, living_behavior: LivingBehavior) -> None:
        super().__init__(work_behavior)
        self.living_behavior = living_behavior

    def eat(self) -> None:
        self.living_behavior.eat()

    def sleep(self) -> None:
        self.living

依存関係逆転の原則 (Dependency Inversion Principle)

上位のモジュールは下位のモジュールに依存してはならない。双方とも抽象に依存すべきである。 つまり、上位のクラス(高レベルのモジュール)が下位のクラス(低レベルのモジュール)に直接依存するのではなく、抽象(インターフェース)に依存するようにすべきです。

class Database:
    def get_data(self) -> str:
        # データベースからデータを取得する処理
        return "data from database"

class Application:
    def __init__(self, database: Database) -> None:
        self.database = database

    def get_data(self) -> str:
        return self.database.get_data()

上記の例では、Application クラスが Database クラスに直接依存しています。この依存関係を逆転させるには、抽象を導入します。

from abc import ABC, abstractmethod

class DatabaseInterface(ABC):
    @abstractmethod
    def get_data(self) -> str:
        pass

class Database(DatabaseInterface):
    def get_data(self) -> str:
        # データベースからデータを取得する処理
        return "data from database"

class Application:
    def __init__(self, database: DatabaseInterface) -> None:
        self.database = database

    def get_data(self) -> str:
        return self.database.get_data()

これで、Application クラスは DatabaseInterface に依存するようになりました。この設計により、Database の実装を変更しても Application クラスに影響を与えずに済みます。 SOLID 原則を適用することで、コードの保守性、拡張性、柔軟性が向上します。Pythonでも同様に適用が可能なため、大規模なプロジェクトでは必須の原則と言えます。適切に設計することで、質の高いコードを書くことができるでしょう。

ONNXによるC++ベース機械学習推論

ONNXを使ってPyTorchモデルの推論を高速化する

機械学習モデルの実運用においては、推論時間の高速化が非常に重要な課題となります。特に大規模モデルを使う場合、推論に時間がかかり過ぎると実用的ではなくなってしまいます。幸いPyTorchには、ONNXを使ってモデルの推論を高速化する機能が用意されています。

ここでは、ONNXを使った推論高速化の手順と、実際のコード例を見ていきましょう。

手順1: モデルの定義

まず通常通り、PyTorchを使ってモデルを定義します。今回はシンプルな線形回帰モデルを例に使用します。

import torch.nn as nn

class LinearRegressionModel(nn.Module):
    def __init__(self):
        super().__init__()
        self.linear = nn.Linear(1, 1)

    def forward(self, x):
        out = self.linear(x)
        return out 

手順2: モデルの学習

次にモデルを学習させます。ここでは詳細は省略します。

手順3: ONNXへの変換

学習済みのモデルをONNX形式に変換します。

import torch.onnx

# 入力データのダミーを作成
dummy_input = torch.randn(1, 1)

# モデルをONNXに変換
torch.onnx.export(model, dummy_input, "linear_model.onnx", opset_version=11)

手順4: ONNXランタイムでの推論

ONNXランタイムを使って、ONNXモデルから推論を行います。

import onnxruntime

# ONNXセッションを作成
ort_session = onnxruntime.InferenceSession("linear_model.onnx")

# 入力データ
X = [[0.5]]

# 推論実行
input_name = ort_session.get_inputs()[0].name 
output_name = ort_session.get_outputs()[0].name
outputs = ort_session.run([output_name], {input_name: X})

# 結果の表示
print(f"Output: {outputs[0]}")

以上のように、ONNXを介すことでPyTorchモデルの推論を大幅に高速化できます。ONNXランタイムは最適化されたC++ベースのエンジンを利用しているため、PyTorch自体のPythonベースの実装より高速に動作します。 特に大規模モデルを使う場合、ONNXを使った推論高速化の恩恵は大きくなります。実運用時の推論パフォーマンスを確保したい場合は、ぜひONNXの活用を検討してみてください

PyTorch推論時間の高速化

PyTorchモデルの推論時間を最適化する | たった1行のコードで2倍の高速化

機械学習コンペティションでは、しばしば推論時間に厳しい制限があります。例えば、1100サンプルに対して120分以内にCPUで推論を完了しなければならない場合などです。このような状況下では、モデルの推論効率を最大限高める必要があります。 幸いなことに、PyTorchには推論時間を大幅に短縮するための簡単な方法が用意されています。

# モデルをロード
model = torch.load(MODEL_PATH, map_location=torch.device('cpu'))

# 推論用にモデルを最適化するマジックコード
model = torch.jit.optimize_for_inference(torch.jit.script(model.eval()))

このたった1行のコードにより、モデルが推論用に最適化されます。torch.jit.script()でモデルを計算グラフに変換し、torch.jit.optimize_for_inference()で推論に特化した最適化が行われます。 実際にEfficientVit-B1モデルで試した結果、100サンプルのサブセットに対する推論時間が612秒から301秒に短縮され、なんと51%もの高速化が実現しました。 機械学習コンペティションでは推論時間への要求が厳しいため、このような最適化はモデルのパフォーマンスを大きく左右します。 今回紹介した手法はたった1行のコードで実装できますが、その効果は計り知れません。PyTorchを使ってモデルを構築する際は、是非この最適化手法を取り入れて、推論パフォーマンスを最大化させましょう。

PyTorchのメモリ節約小技

PyTorchでメモリ使用量を最小限に抑える

PyTorchを使ってディープラーニングのモデルを構築する際、メモリ使用量を最小限に抑えることが非常に重要です。メモリの効率的な利用によって、モデルの学習がスムーズに進み、また推論時のパフォーマンスも向上します。 今回は、バッチサイズBの2D テンソル (B x H x W) を3チャンネルのイメージテンソル (B x 3 x H x W) に変換する際の、非効率的な方法と効率的な方法を比較してみましょう。

非効率的な方法

x = x.unsqueeze(-1) 
x = torch.cat([x, x, x], dim=3).permute(0, 3, 1, 2)

この方法では、まずxをBxHxWx1の形状に変形し、そのテンソルを3回結合してBxHxWx3のテンソルを作成しています。最後にpermute()を使って、チャンネル次元を移動させています。この一連の操作は、多くのデータ移動を伴うため、非効率的です。

効率的な方法

x = x.unsqueeze(1)
x = x.expand(-1, 3, -1, -1)

一方、この方法ではデータ移動がほとんど発生しません。最初にx.unsqueeze(1)でBxHxWを BxIxHxW に変形し、次にx.expand()を使ってチャンネル次元を3に拡張しています。 expand()は新しいメモリを確保せずに、既存のテンソルを拡張します。そのため、非常に軽量な操作となり、メモリ使用量を最小限に抑えることができます。 まとめると、PyTorchではできる限りデータ移動を避け、expand()などのinplace操作を活用することで、メモリ使用量を最適化することが重要です。特に大規模なモデルを扱う際には、このようなテクニックを意識的に取り入れる必要があります。